一見どこにでもありそうな家庭
でもなんか変・・・
映画 「関心領域」 The Zone of Interest (2023)
スタッフ
監督/脚本 ジョナサン・グレイザー
原作 マーティン・エイミス 『関心領域』早川書房
出演 クリスティアン・フリーデル、 サンドラ・ヒュラー
背景
1945年 ポーランド
おおよそ600万人を超えるユダヤ人が殺害され、その中でも多くの犠牲者を出したアウシュビッツ強制収容所
本作は大量殺戮という人間の異常な衝動を、アウシュビッツ強制収容所の隣で暮らす家族を通して描かれている
YouTubeショート 【レコメンそじぼ】
私のYouTubeチャンネル『レコメンそじぼ』でも、本作品を紹介していますのでぜひチェックしてみてください。
感想
普通すぎて恐ろしい
いつかのドラマに出てきそうな絵に描いたような家庭
子供がいて、親戚がいて、男は家族のために働き、妻は家庭を守る
しかし妻が羽織るのは略奪してきた毛皮のコート
寝付けない子どもに絵本を読んで聞かせる父親は、壁の向こう側では黙々と大漁殺戮を指揮する男だ
日常に散りばめられた違和感
午後のひと時、いつものように友達が集まり、略奪してきた品を自慢し合う
何気なく飛び交う禍々しい会話
耳をすませば聞こえてくる不吉な音
延々と立ち上っていく煙突の煙
平穏な日常は、暴力から壁一枚隔てたギリギリのところで成り立っているのだと気付かされる
時代に抗う異端者
異端な者として映し出される一人の少女
時代が推し進める思想に疑いの目を持ち、さらに自分の信じる道を貫くということは難しい
暗闇の中で照らし出される彼女の異端な行動は、何十年という時間を経てもなお、眩しい希望の光となって私たちの濁った視界を綺麗に拭い去ってくれる
実在する人物がモデルとなり、その証言をもとに撮影された彼女のシーンは、何度となく危険な目に遭ったことを容易に想像させる
恐怖政治に屈せず時代に抗う姿はこの映画の唯一の救いであり、少女が発する熱量と意志は生きる指針として忘れずに持っていたい
まとめ
着たい服を着て、食べたいものを食べ、快適な家に住むという願望は、現代に生きる私たちの価値観とどう違うのか
この映画では誰もが共感する、どこにでもありそうな家庭と暮らしが映し出されている
だからこそ同じ人間として、あの残虐行為に及ぶ衝動とは何なのかをより深く考えさせられる
あの一家は壁一枚隔てた先の領域に対して、恣意的に関心をシャットアウトしていたのだろう
それはあまりにも日常的だったのかもしれない
ならば今の日常にも関心を払えば、些細な領域にその根源となるものを見出すことがあるのかもしれない
知らないふりをして許容してしまっているものや無関心を装っているものはないだろうか
薄暗い廊下で立ち尽くすルドルフがこちらを見つめて、現代の私たちから何某かの返答を求めているような気がするのだ
参考資料
映画「関心領域」
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